未来の価値

第 15 話


日もすっかり落ち人々が寝静まった頃、もぞもぞとベッドの上が動いた。
ベッドの上の影は眠そうな動きでもぞもぞと体を起こすと、上質な毛布と共に体に回されていた腕がするりと滑り落ちた。両腕をぐっと上に向けて伸ばし、ふわ~と大きな欠伸をした後、眠い目をこすりながら、暗闇の中手探りでディスクライトをつける。
小さな明かりに照らされたのは、いまだ眠そうな目をした茶色の癖っ毛に翡翠の瞳を持つ人物だった。
時計を見るとまもなく23:00。
ここを出るのが1:00だったはずだから、起きるには丁度いい時間だろう。
さてどうしようかなと、隣で眠るルルーシュを見ながらスザクは再び欠伸をした。




視察の予定を大幅にずれ込ませたルルーシュに、この後の予定は大丈夫なのか尋ねた所、視察後は体調不良を装い寝室にこもる予定だったとスザクに告白した。
なるほど、体を休めるために纏めて時間を取ったのかと最初は思ったのだが、ルルーシュが口にした頼みごとの内容に一瞬だけ驚き、ああ、ルルーシュらしいなと納得したし、自分が加担させられる理由も全て理解できた。
どうしても今日中に片付けたいのだという書類を17:00まで捌き、その後体調不良を装って寝室へ。スザクも一緒なのは、その方が安心して眠れたから連れてきたのだとジェレミア達に説明して強引に押し切った。
とはいっても強引だと思っているのはルルーシュだけで、車の中でも書類に目を通し、睡眠も碌にとらずに執務室にこもり、休憩もとるひまがないというその姿に周りがハラハラしていた所にスザクが現れ、短い時間といえどもルルーシュが眠ったのだから拒否する理由など無かった。
ただ、ジェレミア達に「殿下に手を出したら・・・」と、釘だけは何本も刺されて、あの殺気だった様子から、手を出したら本当に殺されそうだとスザクは悟っていた。
そもそも男同士なのに、と思最初は思ったのだが、相手はこのルルーシュだ。久しぶりに会った幼馴染は美しく・・・男に使うのはどうかと思うが、そうとしか言い表せない成長をしており、例え同性であったとしても簡単に道を踏み外しかねないだろう。
たしかに、政庁を歩いている時、色づいた視線をルルーシュに向けている者は多く、その中には男も少なからず含まれていた。
もちろん、純血派の面々もそれに気づいている。
だからこそ、親友とはいえスザクの事も警戒しているのだ。
だが同時に、軍属で身体能力については最高評価のスザクがルルーシュのすぐ傍にいる事に安堵もしていた。
理由は簡単だ。
書類仕事は確かに疲労の原因ではあるが、最初の予想通り暗殺に対する警戒心がルルーシュを休ませない要因にもなっていた。
防弾ガラス、何重にも施された施錠、電子的な最高峰のセキュリティ。
どれもルルーシュが納得する物を施したが、それでも安眠はできないのだという。
当然だ。
ここ以上に強固な警備がされていた離宮で母親が暗殺されたのだ。
夜、自分が眠っている時間に。
その上、犯人もいまだにつかまっていない。
不安を感じない方がおかしい。
皇族に戻ってからは、夜になりベッドに入ると母の死の姿が何度も夢の中に現れたという。当然毒殺も心配したルルーシュは、どういう方法でかは知らないが信用できる業者見つけ、ここまで食材や飲料水を宅配して貰っているのだという。誰も立ち入れないこの場所で、安心できる食材を使い、自分で料理をする。そこまでしないと食べ物も喉を通らない。「我ながら細い神経だ」と力なく笑いながら、その食材で夕食を、それも和食を用意したことでスザクは大喜びした。そんなスザクを見て、ルルーシュはようやく心の底からの笑顔をみせてくれた。
お風呂に入った後は計画のためにも眠らなければいけないというのに、積もる話がありすぎてついつい色々と話しこんでしまった。
就寝の際には、昼間スザクを抱き枕にしたのがよほど気に入ったのか、ここでも抱き枕扱いして二人仲良く眠りについたのが20:00頃。
もう少し眠らせたいところだが、そろそろ起きなければ間に合わなくなる。

「ルルーシュ、起きて。時間だよ」

体をゆすりながら声をかけるのだが、深く寝入ってしまったルルーシュはなかなか起きてくれない。5分ほど起こしてもむずがる程度。
お腹が満たされ、お風呂で体は温められ、安心して眠れる環境。身も心もリラックスしたことで訪れた久々の深い眠りは、ルルーシュを離そうとはしないらしい。

「仕方ないなぁ」

やる事は聞いているから、やれる事をやってしまおうか。
スザクはベッドを下りると、ルルーシュが用意していた私服に着替えた。




「・・・おいスザク」

ものすごく不機嫌そうな声が背中から聞こえてきた。

「あれ?起きた?おはようルルーシュ」

にこにこ笑顔つきの、ものすごく機嫌の良さそうな声でスザクは返した。

「おはよう、じゃないだろう!」
「わ、ちょっ、ルルーシュ、しーっ!誰かに聞かれたら大変だろ」

その言葉に、ルルーシュは慌てて口をつぐんだ。
そして、辺りをきょろきょろと見回すが、誰もいないためしんと静まり返っており、背中越しに解るほど安堵の息を吐いていた。

「・・・起こせと、言ったよな」

そう言いながらも降ろせと言わないので、このまま運べという事なのだろう。スザクはそのことには触れずに歩き続けた。しんと静まり返ったこの場所では、一人分の砂利を踏む音が妙に大きく聞こえる。

「うん、聞いてた」
「そうか、それはよかった。じゃあ、何でこんな状況なんだ?」

こんな状況。
真っ暗闇の中、スザクに背負われて街中を移動したという状況。
とはいえ人一人背負っている姿は目立つため、その辺は考えながら移動はしている。今は人気のない森林公園の中を歩いていた。安全な土地ならいざ知らず、連日テロが起きるこのエリア11で、夜中に公園内を歩こうなんて人間はいない・・・とは思うが、念のため静かに動く方がいいのだ。
もし誰かいるとしたら、面倒な相手に違いないから。
僅かな外灯だけの森林公園は何処か薄気味悪く、ルルーシュは思わず身震いした。

「僕は起こしたよ?何回もね」
「嘘をつくな」
「ホントだよ。大体さ、君、ちゃんと着替えてるだろ?」

僕が着替えさせたんだよ?
ルルーシュの服も、寝る前にきちんと用意されていたため、起こしても起きないルルーシュを着替えさせたのだ。その間も一切眼を覚まさなかった。
・・・少しだけ、いやかなり、健全な青少年の精神衛生上よろしくない姿を見てしまった気がするが、スザクはそこはあえて見なかったことにした。
うわ、肌白い!腰細い!え?何でそんな下着なんだ!?とか、気にしたらアウトだと思ったからだ。
自分はノーマルなんだ!と言い聞かせないと本当にまずかった。
僕たち友達だから、しかも男友達だから。
そう言い聞かせている時点で十分アウトな事にも目をつぶった。
そんな葛藤の末きちんと着替えさせられた事に安堵の息を吐いた事も、もちろんもう忘れることにした。
言われて、自分が闇夜に紛れやすい黒い私服を着ている事に気付いたルルーシュは、スザクの言葉を渋々信じたらしく「すまなかった」と、ポツリとつぶやいた。

「いいよ、気にしないで。でも丁度良かった。君が言っていた場所までもう少しなんだけど、そこから先は聞いてなかったからね」

だから、どうやって起こそうか考えてたんだ。

「そうだったな。この公園を出たら左に曲がってくれ」
「うん、わかった」

やはり降りる気配のないルルーシュを背負いったまま、スザクは足を速めた。




**************

「ルルーシュ、これすっごく美味しいよ!」

久しぶりに食べる和食を、スザクは美味しそうに食べ進めた。

「そうか?沢山作ったから、いっぱい食べてくれ」

喜ぶスザクを見てルルーシュの機嫌が回復し、ストレスは軽減された!

とか

「よしスザク、一緒に寝るぞ」
「それはいいけど・・・近いよルルーシュ」

折角ベッド広いのに。
昼間一緒に寝たことで男二人で寝るのは抵抗はないが、どうしてくっついて寝なければいけないんだろうと、スザクは首を傾げた。

「何を言っている。離れたら抱き枕に出来ないだろう」

お前暖かいから、昼間凄く快適に寝れたんだ。

「え?今、僕枕扱いされた!?そこはせめて、僕の体の抱き心地が良かったとか言おうよ!」

物扱いしないでよ!

「なっ!だっ抱き心地がいいなんて、そっ、そんなふしだらな事言えるか!」
「えええええ!?」

赤面して怒鳴るルルーシュとふしだらって何!と驚くスザク。
スザクを抱き枕にした事でルルーシュのストレスが軽減した。
ルルーシュは安心して熟睡した。
スザクも熟睡したが、色々思う所があり精神的に疲労した。
とか書こうとしたけど自重した。

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